サマーエンド・ラプソディ
         〜789女子高生シリーズ

 



       




しきたりに追い詰められる悲恋や、
なさぬ仲に絶望して駆け落ち…なんていう素地のお話じゃあるけれど、
どちらかといやコミカルな喜劇の要素が強い物語であり。
本来の恋人ではない女性を好きになってしまった男性二人が、
肝心なヒロインであるハーミアを押し付け合ったり、
精霊の王妃様が、
ロバの頭をかぶった男にうっとりと惚れてしまったりの下りでは、
客席から笑い声も上がったほどで。
やっと妻とも仲直りしたオーベロンが、だが、
人の男女に起きていた混乱へ気がついて。
これはどういう食い違いだと、悪戯を叱られたパック。
もつれた糸をほどくためのひと仕事に跳ね回り、
夜明けと共に、恋人たちは本来の愛しい人と巡り会い、
殊に、デミトリアスはヘレナに恋をしてしまい、
イージアスに掛け合って、
ハーミアとライサンダーを結婚させてやってほしいと申し出て、
すべては丸く収まり大団円…。
結構 長丁場の幕をすべて通して演じた公演は、
それでも破綻のないまま、
どの踊り手も全力掛けてすばらしい舞いを披露し、
大盛況のうちに幕を閉じた。

 「…でね。あ、三木さん。」
 「お疲れ様でした。」
 「素敵でしたよ、ハーミア様。」

バレエ団の主幹長様や脚本・演出のせんせいがたから
お褒めの言葉をいただいて。
スポンサーだの後援会だのからの
お迎えあってのレセプションの席もあるそうだということで、
主役級の方々なぞは、身支度を済ますとそちらへ向かってしまわれて。
それ以外の顔触れはといえば、
やはりメイクを落としの着替えのしてから、
三々五々にお声を掛け合っての
打ち上げに繰り出そうという顔触れもあるようだけれど。

 「三木さんは、学校もあるから。」
 「そか。じゃあ、練習場でね。」

そこはやっぱり、強硬に付き合わせようとはなさらぬお行儀の善さよ。
…といいますか、
大財閥の御令嬢で、しかも
成長著しいと有名どころから余さず注目されてもいる人材なので。
下手に手出ししては我が身が危ないと、そこは誰だって気がつくところ。
つまりは、大人の判断も働いてのこと…というのが正解かと。
そんな訳で、
早くお帰りなさいねと、何なら送って行きましょうかという
二通りの声が掛けられるのへ、
そこは最低限の礼儀、一応の目礼を返しつつ。
ちょっぴりルーズなシルエットながらも、素材はシルクか涼しげな、
ジレとマキシパンツのアンサンブルに、
柳楊織りのシックなブラウスというこざっぱりとした装いのまま。
結構な大役の後とは思えぬ颯爽とした足取りで、
出演者用の通用口へと たったか向かう紅ばら様。
このごろでは宵に涼しい風も立つのでと、
綿のストールを腕へとからげるように巻きつけて、
小気味良い歩きようをするお姿は。
そのままお廊下が
キャットウォークかランウェイであるかの如くという、
凛々しさ、華麗さでもあったれど。

 「  ……っ。」

落ち着いた雰囲気を優先してのこと、
公演時間中も さほどに煌々とは灯されていなかった館内照明。
観客も去った今は尚のこと、
バックヤードの廊下なぞ、
間接照明だからという以上にその照度を落とされているものの、
慣れた通路だし、夜目も利くとあって、
そんなことくらいへは不自由さを感じはしない。
ただ、

 “…誰だ?”

まだ舞台の撤収もあろうから、
こちらの会場スタッフはこんなところに居るはずがなく。
出演者やスタッフという関係者ならば、
誰に見とがめられようと隠れる必要はない区域。
なのに、一本道のこの通路上へ姿を現さぬということは、
見つかってはいけない立場か、それとも……。

 「 …西の通用口へ急いでくださいませ、お嬢様。」

今は すっかりと掻き消えているものの、
先程確かに嗅げた、だからこそ怪しき気配の残滓目がけ。
その注意を冴えさせていたところへと、
背後からひょいっと掛けられた声があり。

 「???」

え?え?え?と、前へつんのめりかかったお嬢様の二の腕を捕まえて。
あくまでもやんわり…決して負担は掛けぬ 優しい力加減にて、
姿勢を立て直させたそのまま、
こっちですよと手を引いて、廊下を後戻りさせる誰かさん。
その態度にも強引なところはなかったし、

 「……。」

ここが一番重要なのが、
その相手というの、他でもない久蔵を送り迎えしてくれている、
三木さんチのお嬢様用セダンのお抱え運転手のお兄さんであったので。

 微妙に出端を挫かれちったなぁ。
 でもでも、車をつけてた通用口が変わったみたいだし。
 それでとわざわざ来てくれたんだなぁ…と思えば、

強引ではあったが手際は優しいこともあり。
むきになって逆らうこともあるまいと、
そのまま従うことにした久蔵お嬢様。
やや小走りという速度なのへも不審はなくて。
昨日までは自分からもたかたか駆け足で車まで戻ってたくらいだもの、
それを覚えていてのこと、
早く帰りたがりなお嬢様だと覚えてくれてのことに違いないと、
微塵も疑わずにいただけのこと。


  なので


to be continued. ( 12.08.23.〜 )


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  *微妙なところで切ってすいません。
   ここで力尽きました。
   続きもすぐに書きますね。

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